季節外れの雪が東京の空を舞っている。
薄いピンク色の桜吹雪に紛れて、いびつな形をした粉雪が乾いた風にのっていく。
僕は、引っ越しの日払いバイトを終えて、いつもより早く板橋駅に降り立った。
よく分からない男にカラオケボックスで号泣された日から1週間が経とうとしている。
僕は、スマートフォンで地図を出して、家とは真逆の仲宿商店街を目指す。
あの日、帰ろうとする僕を引き留めた男は、ほぼ強引に僕のスマートフォンを奪うと、むりやり連絡先を奪われた。
その日から、男から一方的なLINE攻撃が始まった。
「俺はお前となら天下を取れる気がする」
「お前の能力を引き出せるのは俺しかいない」
「お前はそのままでいいのか?その心のうやむやをステージで爆発させろ!」
何度も、ブロックしようと思ったが、恨まれて後ろからナイフで刺されかねないので、怖くて既読スルーを決め込んでいた。
ほぼ一時間置きにこういうメッセージが送られてくる度に、僕は仕事とは別の疲れを感じていた。
そして昨日。出会ってから6日が経った日。ついに男は住所を送ってきた。
「ここに来てくれ」と。「来なきゃ俺は何をするかわからない」と。
すごく憂鬱だ・・・。
こんなに気分が沈むのは小学校6年生の時の修学旅行で熱を出してバスの中で待機した時以来だ。
ちゃんと断ろう。ちゃんと言おう。
僕は小さなため息を何度もつきながら、男の家を目指した。