すき間から漏れた光が、優しく秦野さんを照らしている。
僕は秦野さんの正面に座った。
遠くで救急車の音が聞こえる。
自分の部屋に他人が入るのは初めてのことだった。
手を伸ばして秦野さんの頬に触れる。
温かい。
僕は秦野さんと見つめ合い、そして、そっと唇を重ねた。
とてもゆっくりとした口づけだった。
まるで部屋のすき間をそっと埋めるような、優しい口づけだった。
秦野さんは照れながら「大根の味がする」と言って静かに笑った。
僕は秦野さんの笑顔を見て、安心してそのまま横になった。
秦野さんは、僕にタオルケットをかけてくれて、寄り添うように隣で横になった。
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朝起きると秦野さんはいなくなっていて、すき間から覗いてみてもそこにはもう何もなかった。
僕らは連絡先も交換していなかった。
いつだって会えると思っていたから。
何もない部屋を覗いていると、急に寂しさがこみ上げてきた。
そこから僕は、しばらく秦野さんから手紙がきたりしていないか、期待して郵便ポストを覗いたりしていたけれど、何も届いているはずはなかった。
ただ1年前と変わらない、同じような生活が戻ってきただけだった。