コラム

イタバシュラン短編小説集『大根女優』第十五話

誰もいなくなった廊下で、僕は1人たたずんだ。

借金?

悪人?

秦野さんが?

嘘だろ。

そんなことあるはずがない。

けれど僕は、秦野さんのことを何も知らない。

(おいおい。あの男達は秦野さんを見つけたらどうするんだ?まさか、殺すのか?もう何が本当で嘘なのか分からない)

高鳴る鼓動を必死で抑える。

あの写真は間違いなく秦野さんだった。

それは間違いない。

僕にいったい何ができる?

何かすべきなのか?

いや、何もできないだろう。何も知らないんだから。

でも・・・。

何度、自問自答しても堂々巡りの答えしか返ってこない。

僕はいてもたってもいられず、とにかく何か手掛かりはないかと考えた。

すると、いつか玄関のドアに挟まっていた劇団の公演チラシを思い出した。

以前、目を通した後にテーブルの上に置いたままにしていたチラシだ。

劇団の関係者なら何か知っているかもしれない。

電話で事情を聞こうかと思ったけれど、何から話せば良いか思いつかず、僕はひとまず劇団の事務所のある幡ヶ谷まで出向くことにした。

前へ次へ