コラム

イタバシュラン短編小説集『大根女優』第十四話

それは秦野さんがいなくなって1ヶ月くらい経った後だった。

隣の部屋から物音が聞こえてきて、まさか秦野さんが戻ってきたのかと思った僕は、すき間を覗いていた。

しかし、そこにはスーツを着た男が2人立っていた。

(なんだよ、入居者の内覧かよ)

舌打ちをして布団に寝っ転がると、僕の部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。

出てみると、さっきのスーツを着た目つきの悪い男が立っていた。

僕を見るなり、その男は

「二宮さんいつからいないの?」

と乱暴に尋ねてきた。

「二宮さん?誰ですかそれ」

男は僕の質問にため息をもらして、胸元から携帯電話を取り出して写真を見せた。

そこには優しく微笑む秦野さんが映っていた。

「この中年のババアだよ。ここに居たのは分かってんだ。いつ居なくなった?」

「秦野さんのことですか?」

「秦野?ちっ、偽名使ってやがったか。で、いつから居ないの?」

「・・・さあ、もうしばらく留守のようですけど」

「なんだよ。おい、行くぞ」

目つきの悪い男は、もう 1 人の子分のような茶髪の男に向けて顎をしゃくった。

茶髪の子分はスーツのサイズが合っていなく、ひどく間抜けに見える。

「あの、なにかあったんですか?その人」

僕は慌てて、男に声をかける。

「そこいら中に借金しまくって消えた悪人だよ」

「そんなこと・・・」

僕の返事も待たずに、男は吐き捨てるようにそう言うと、さっさと出て行ってしまった。

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