秋が過ぎて、あっという間に冬になっていた。
気まぐれのようにヒラヒラと舞う粉雪を見つめながら、地元の岩手を思い出して歩く。
アパートの玄関に着くと、知らぬ間に肩と頭に降り積もった雪を振り落とす。
粉雪に手を伸ばそうとするとそれはすぐに雫になった。
僕は大学2年になった。
惰性で覚えた麻雀にどっぷりはまって、学校をサボって1日中麻雀を打ったり、雀荘でアルバイトをなんかも始めていた。
僕は、あまり家にいなくなった。
麻雀を徹夜で打って、帰ってきてもただ寝るだけ。
起きたらまた麻雀を打ちに家を出る。
金がなくなったらバイトを増やす。
大学2年の夏はその繰り返しだった。
秦野さんとも顔を合わすことはめっきり少なくなっていた。
時折、部屋のドアに手紙が挟まっていて、劇団の公演情報とチケットが入っていたけれど、僕は無視をした。
朝方、味噌汁のにおいがしてきて何度かドアをノックする音も聞こえたけれど、寝ている振りをした。
今思えば、なんでそんなことをしたのだろうと思うけれど、きっとその時は余裕がなかったのだと思う。
それと、いい歳して幸せそうに芝居なんかやってる秦野さんに少し嫉妬していたのかもしれない。
僕はお金もなく、大学にもろくに行かずに毎日麻雀やって酒飲んで、まったく生産性のない日々を過ごしているのに。
秦野さんは人生の煩わしいことをすべて片付けて、あとは自分のやりたいことを全力で楽しんでいる。
そういうことに勝手に苛々していたのかもしれない。
ある日、いつもと同じように朝から終電まで麻雀を打って帰ってきた夜。
僕はいつものように暗い部屋に入ると そのまま布団に倒れこんだ。