「おつかれ~」
僕はすました表情をとっさに作り、二人に声をかける。
「遅いよお前。ビールでいいか?」
「うん。お、リカも来てたんだ」
「うん、ほら。今度の新卒歓迎会の準備三人で進めるって言ってたじゃん」
「そうだった、そうだった」
席につくと、さっそくリカは仕事の話を始めた。テーブルを見ると、リカが頼んでいたのは烏龍茶だった。いつだって真面目だ。
ああでもない、こうでもないとリカが話を進め、瀬長が横からアイデアを出す。僕は二人のやりとりをぼんやりと眺めながらビールに口をつける。
仕事の話から後輩や先輩の話になり、瀬長の彼女の話だったり、職場近くのラーメン屋の店員さんが面白いとか、年末年始の連休はどう過ごすとか、そんな話をしていたけれど、僕はほとんど上の空だった。
「もうひとり、よんでもいいかなあ?」
仕事の話に一通り決着がつき、2時間程経った後、リカが言った。
僕は「もちろん」と答える。
「よし!今日はとことん飲もう!ねえ、カラオケいかない?」
リカは珍しくテンションが高い。きっと、ずっと抱えてた仕事のゴールが見えたことで安心したのだろう。僕と瀬長は、リカの発案に同調し、終電を見送って、三人でカラオケの鉄人へ移動した。
僕は、それが悲劇の始まりだとはこの時、思いもしなかった。